楽観的思考の勧め【こころの休憩室 vol.16】

コロナ感染による行動自粛が続く中、皆さんはどのようにお過ごしでしょうか。
感染のピークが過ぎたとはいえまだまだ油断はできず、これからの生活様式、行動様式の変化が避けられそうにありません。

このような大きな変化がある状況でストレスを感じる方も多いのではないでしょうか。
そこで、今回は、悲観的な考えになりがちな時こそ、楽観的な考えになる方法についてお伝えできればと思います。

1. 考え方の違いは遺伝子にある

人は同じ環境の中にあっても、楽観的な人、悲観的な人、その中間にある人と、人によってその傾向はそれぞれです。
では、その違いはどうして生まれるのでしょうか。

それを知るには大昔の人類にまで遡る必要があります。
大昔の人類は、外敵から命を守るための武器も、食料を蓄える知識もなかったため、生きていくためには常に危険や脅威に対し敏感でなくてはなりませんでした。
その結果、脳の中で危険や脅威に対する情動反応の処理と記憶をつかさどる「偏桃体」といわれる部分が発達しました。

例えば、ヘビやクモに遭遇して危険と感じて咄嗟に体が反応するのも、この「偏桃体」の働きによります。
大昔の人類がヘビやクモに生命を脅かされた経験が記憶(遺伝子)となって脈々と子孫に受け継がれてきたのです。
このように危険を回避する能力は、人間が生き延びるための大切な能力の一つと言えます。そして危険を回避するための情動が、不安や恐怖などの感情なのです。
不安や恐怖などの感情、つまり「悲観的な考え」はこの偏桃体が大きな役割を果たしているのです。

2.「偏桃体」の働きを調整する大脳の一部「前頭前野」

長い年月をかけ人類が進化していく過程で、脳の中の大脳が発達していきました。
命の危険を回避する能力を身につけた人類は、危険を反射的に察知する偏桃体をある程度調整する能力が備わりました。
その調整役が大脳の一部である「前頭前野」となります。「前頭前野」から出る信号が「偏桃体」にブレーキをかけ、過度な不安や恐怖の感情を和らげるのです。

この「偏桃体」と「前頭前野」の働きは、神妙なバランスで成り立っているため、その働きに人によってクセがあることが分かっています。
そして、そのクセは遺伝子の影響もありますが、その人がこれまでの経験や知識が複雑に絡み合うことで後天的に身につく部分も大きいのです。

このように「偏桃体」と「前頭前野」の働きのクセは、人が物事をどのように見るか、どのように解釈するかの違いを生み、その結果、悲観的な考えをするのか楽観的な考えをするのかに分かれる要因となるのです。

3. 思考は現実化する

「100万円も貯金があるのでとても豊かだ」と考える人がいる一方、
「100万円の貯金しかない。不安で不安で仕方がない」と考える人もいます。

又は、同じ状況にあっても
「何とかなるさ」と考える人もいれば、「もう駄目だ」と思う人がいる。

私たちが生活する中で、楽観的な考えと悲観的な考えを微妙なバランスで行ったり来たりしながら何百回、何千回、何万回と繰り返す中で、その考え方の差が強化され最終的に思考のクセとなります。

思考のクセは、目と耳から入ってくる多くの情報の中から、注目すべき情報を無意識に選択していき記憶に刷り込んでいき、更にクセを強化していきます。
そこで注意しなければならないことは、人が物事をどう見るか、どう対処するかによって、実際に起きることが大きく変化してしまうことがあるということです。
楽観的な考えの人の周りには、ポジティブなことを多く引き寄せ、一方悲観的な考えの人にはネガティブなことが多く引き寄せられる傾向にあるようです。

ある意味当たり前の話で、楽観的な考えの人は、ポジティブな情報や人が集まり、リスクを恐れずチャレンジする傾向があり、結果的に良い結果につながることがありますが、一方、悲観的な考えの人は、リスクを重く考えるあまりに消極的な行動になりがちで、結果的にチャンスを逃すことが多くなります。
だからこそ楽観的な考えを持つことが大切になります。

4. 楽観的思考を増やし「前頭前野」を強化する

楽観的な考えも悲観的な考えも人が簡単にコントロールできるものではなく、そもそも大昔からの遺伝子とそれぞれの個人が長年積み重ねてきた脳のクセということがお分かりいただけたと思います。
しかし、「私はいつも悲観的(ネガティブ)な考えばかりしか持てない」という方でも諦める必要はありません。

近年、脳科学の世界で、脳の神経回路は、歳をとっても成長させることができ、新たな回路に組み替えることができることが分かってきました。
なので、悲観的な考えが強い人でも、脳神経を新たに組み換えするだけで楽観的な考え方のクセをつけることができるのです。
そこで、楽観的な考えのクセをつけるエクササイズをご紹介します。

“Three Good Things”というエクササイズがあります。このエクササイズはポジティブ心理学で有名なマーティン・セリグマン博士が開発したものです。
毎日寝る前に、今日起こった3つの「良かったこと」を書き出すだけの単純なワークです。
例えば「今日のスパゲティは美味しかった」「今日は一日とても天気が良かった」「溜まっていた仕事が終わった」など、どんな些細な事、つまらないことでも構いません。

ただ、エクササイズには大切なことが2つだけあります。
一つは、寝る前に行うこと。
睡眠は頭の中の記憶を強化する働きがありますので、寝る前に“Three good things”を行うことで、頭のなかに良い感情の記憶が強化されるそうです。
2つ目は続けることです。まず試しに最低1週間は続けてください。
セリグマンによれば、1週間続けることで、その後、半年間にわたって幸福度が向上するといった実験結果を得たようです。頑張って続けてみましょう!

最後に、イギリスの宰相ウィストン・チャーチルの言葉をご紹介します。

「悲観主義者は全ての好機の中に困難を見つけるが、楽観主義者は全ての困難の中に好機を見つける」

ウィンストン・チャーチル

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