コントロール感がもたらす心の安定【こころの休憩室】

こんにちは。皆様の心身の健康をサポートする「えがおパートナーズ」です。

これまでストレスを感じるしくみや対処法をご紹介してきました。
今回は「どんな事柄が人にストレスを感じさせるか」について考えます。
旅行前日に体調を崩した、仕事で失敗してひどく叱責を受けた、子供が言うことを聞いてくれない……
といった経験を思い浮かべてください。

こうしたできごとは、どうしてストレスだと感じるのでしょうか? 
このようなトラブルに直面したとき、
どうすればストレスに押しつぶされず対処できるのでしょうか? 
鍵となるのは「コントロールできるかどうか」という視点です。

「コントロールできない」と感じることが
ストレスの始まり

心理学者マーティン・セリグマンが行った、犬に電気ショックを与える実験をご存知でしょうか。
紐で繋がれ、逃げられない状態で電気ショックを受け続けた犬は、
紐で繋がれていないときも電気ショックから逃げなくなってしまう、というものです。
犬は苦痛から逃れられないと悟り、無気力になってしまったのです。

この実験は「自分ではコントロールできない」状況が大きなストレスに繋がることを示しています。
ストレスの原因を取り除くことも、逃げることもできないと感じれば、無気力になるのも当然です。

冒頭で述べた急な体調不良や仕事の失敗、子供の反抗も、
起きるかどうかをコントロールしづらいことです。
予防を心がけることはできますが、一度起きてしまえばもう思い通りにはなりません。
だからこそ、起きてしまったときのストレスは大きくなるのです。

コントロールできるかどうかを判断する

逆にいえば、自分でコントロールできると感じるなら、ストレスは軽減されます

例えば「好きなタイミングで出て行ける」お化け屋敷があったら、
怖がりの人も挑戦しやすいと感じるでしょう。
最後まで体験して「意外と楽しかった!」とさえ思うかもしれません。

重要なのは、実行するかどうかにかかわらず、
「自分にもコントロールできることがある」と認識することです。

20世紀のキリスト教神学者ラインホルド・ニーバーが残した「ニーバーの祈り」も、
変えられるものと変えられないものを見極める大切さを教えています。


神よ、変えることのできないものを静穏に受け入れる力を与えてください。
変えるべきものを変える勇気を、
そして、変えられないものと変えるべきものを区別する賢さを与えてください。

この言葉は、何が変えられて、何が変えられないかを区別することが、
自分がコントロールできることを探し出す第一歩になるのです。

確かにコントロールできるものは
「自分の心」

とはいえ、世の中そう簡単に変えられるものばかりではありません。
仕事の失敗はなかったことにできませんし、今後も失敗を完全に防ぐことは不可能です。

これに関して、古代ギリシャの哲学者エピクテートスの考えが参考になります。
彼は「自分がコントロールできるものは自分の心だけだ」と考えました。
エピクテートスは、これから処刑される人に
「死ぬことは変えられないが、死ぬことを嘆くかどうかは変えられる」と言ったといいます。

これほど割り切るのは難しいとしても、
自分の心は変えられるという事実は、困難に直面した時の最後の砦になります。

どうしようもないと思えるときも
「自分のものの見方や行動のなかで、何か変えられることはないか?」と
考えることはできます。
そして、どんなに小さなことであっても、
何かしら「変えられること」はあります。

仕事の失敗の例に戻れば、必ずうまくいくことはありえません。
叱責を受けることもあるでしょう。
ですが、失敗や叱責をどう受け止めるか、次にどう活かしていくかは、
自分次第で変えることができます。

何も考えられないほど落ち込んだとしても、その状況が永遠に続くことはありません。
それは、自分の心を変えられる力をもっている何よりの証明でもあります。

まとめ

  • 「自分にはコントロールできない、どうしようもない」と感じるとストレスは強まります。
    一方で「自分にもできることがある」と分かっていれば、ストレスを感じづらくなります。
  • 困難に直面したら「自分に変えられることは何か?」を考えてみましょう。
    • 「何も変えられない」と感じた時も、自分の行動は変えられます。
      自分にできることの中で、一番できそうなことから始めてみましょう。

セリグマンが行った実験や、ニーバーやエピクテートスなどの言葉も参考にしながら、
「コントロールできない」状況がどれほど強いストレスを引き起こすか、
そしてそれに対処する考え方をご紹介しました。

ストレスになるようなできごとは大抵、予告なく起こります。
そんなとき「自分には何が変えられるのか? 何が変えられないのか?」を
素早く判断できるよう、普段から少しずつ練習しておきましょう。

2024年8月 文責:林


  • 参考文献
    • ドナルド・マイケンバウム, 根建金男・市井雅哉監訳,『ストレス対処法』, 講談社, 1994年
    • エピクテートス, 鹿野治助訳,『人生談義』, 岩波書店, 1958年
    • 読書猿, 『問題解決大全』, フォレスト出版, 2017年

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