健康・医療情報を「理解」する【こころの休憩室 vol.36】
こんにちは。
働く皆さまの心と身体の健康をサポートする「えがおパートナーズ」です。
「コロナ禍から始めるヘルスリテラシー」と題して、
健康や医療に関する情報を有効活用する方法についてお伝えしています。
前回は、ヘルスリテラシーの構成要素である、
情報の「入手」「理解」「評価」「活用」のうち
「入手」についてご説明いたしました。
今回は、入手した情報を正確に「理解」する方法についてご説明いたします。
だれもが情報を「理解」できる魔法のような方法は(おそらく)ありません。
一方で、情報の伝え方をちょっと変えるだけでも、人間は「錯覚」を起こしてしまいます。
情報の「伝え方」で選択が変わる!?
~フレーミング効果~
情報の伝え方による「錯覚」のひとつに
「フレーミング効果」があります。
がん治療で「手術か? 放射線か?」を決める際、
データの示し方の違いで、医師と患者の選択が変わった例を見てみましょう。
手術のデータを「成功率」で示したときは、
医師の84%、患者の78%が手術を選びました。
手術のデータを「失敗率」で示したときは、
医師の50%、患者の40%しか手術を選びませんでした。
伝えられるのが成功率・失敗率のどちらか一方でも、その意味は同じはずです。
仮に手術の成功率70%とするなら、失敗率は30%。
失敗率が30%なら、成功率は70%なのですから。
それなのに、成功率を伝えられれば成功へ、失敗率を伝えられれば失敗へと、
人の意識はひきつけられてしまうようです。
これが「フレーミング効果」です。
人間は錯覚する生き物
このように、人間は錯覚しやすい生き物です。
そして、錯覚しないで物事を見るのは、とても難しいことです。
横線の左右についている矢羽(<)の向きによって、
中央の横線の長さが違って見える「錯視」があります(ミューラー・リヤー錯視)。
錯覚だとご存じの方も多いかと思いますが、頭で分かっていても、
横線の長さが違って見える「感じ」はなくなりません。
情報の与える錯覚も、それと同じです。
情報を「理解」しようとするときは、自分が幾らか「錯覚」している可能性を意識しましょう。
「錯覚しているかも?」という疑いをもちつづければ、錯覚に気づきやすくなります。
「教え直し」で自分の理解度チェック
情報の「錯覚」に惑わされているかも……と思うと、
自分の理解度を自分でチェックする方法が欲しくなります。
そんなときは、「理解した」と思ったことを、
自分の言葉で一度説明してみるのはいかがでしょう。
頭の中で誰かに教えるつもりで話をしてみます。
もちろん、他に聞いてくれる人がいるなら、その人にお話ししてみてください。
話したとき、途中で言葉に詰まったところや、
新たな疑問がわいたところはありましたか?
もしあったら、それこそが、
実はあなたが理解できていないか、
「錯覚」に陥っている部分かもしれません。
これは、「ティーチバック法」という手法の応用です。
元々の「ティーチバック法」は、
医療の専門家が、患者自身に病気への理解を深めてもらう方法です。
専門家が話したことを患者に説明してもらい、
患者が説明できなければ、専門家は説明をやり直します。
これを、患者が説明できるまで続けるものです。
このやり方は、お仕事やご家庭での生活でも役立ちます。
ちょっとした頼みごと・頼まれごとのとき、
お互いに自分のして欲しいこと・することを説明してみましょう。
理解を深め、お互いのコミュニケーションに役立つのではないでしょうか。
まとめ
今回は、健康や医療に関する情報の「理解」を妨げる「錯覚」と、
情報を「理解」したかどうかを自分で確認する方法とを紹介しました。
- 人間はデータを「錯覚」しやすい生き物です。
全く錯覚しないのは難しいので
「錯覚しているかも?」という気持ちを忘れないようにしましょう。 - 「わかった!」と思ったら、
そのことを自分のことばで説明し直してみましょう。
次回は、入手した情報の「評価」です。
その情報は、たしかな経緯や根拠から生まれたのでしょうか?
他の情報とのあいだに矛盾はありませんか?
「理解」した情報を評価してみましょう。
- 参考文献
- 中山健夫『健康・医療の情報を読み解く 第2版』丸善出版、2014年
- 福田洋、江口泰正『ヘルスリテラシー 健康教育の新しいキーワード』大修館書店、2016年